ボリュームチューニング方式DDS VFO キット (Model Num. TG-15040006)
- 消費電流 25mA
- 可変幅 約30kHz (60Hzステップ)
- 上限周波数 8221kHz
- 出力 正弦波 1.1Vpp (500Ω終端)
- RIT機能付き
オプションの DDS VFO 用液晶表示キットを使用すると以下の機能アップとなります。
- IFオフセット表示 (リバースヘテロダイン対応)
- 可変範囲 30kHz - 8221kHz (10Hzステップで連続可変が可能)
特長:
ボリュームチューニング方式採用による液晶表示器レス |
DDS IC による水晶発振器並みの周波数安定度 |
ハンダづけが面倒な表面実装 DDS IC はハンダづけ済みユニットとしてキットに添付 |
低消費電流 25mA (ボリュームチューニング時)、28mA (オプションの DDS VFO用液晶表示キット使用時) |
RIT機能付き |
オプションの DDS VFO 用液晶表示キット取付けによる機能拡張 (表示オフセット、リバースヘテロダイン対応) |
オプションの DDS VFO 用広帯域アンプキット取付けによる出力ブースト |
キットの概要
TGeS LAB では DDS (Direct Digital Synthesizer) IC で波形を生成する VFO キットを開発しました。
DDS方式なので水晶発振器と同等の周波数安定度があり、しかも消費電流はわずか 25mA 。
QRP トランシーバの 局発として組み込めば、周波数ドリフトの無い快適な運用が楽しめます。
また、ボリュームによるチューニング方式を採用していますので液晶表示器が不要、トランシーバの小型化が可能です。
(周波数はボリュームつまみに目盛りを書込んで把握します。)
キットは、ディスクリート部品 (リード足付き部品) を使用しており、全てご自身でのハンダ付けが必要です。
(ハンダ付けが難しい DDS IC (表面実装部品) 部分のみ、TGeS LAB にてあらかじめハンダ付けしてあります)
電源を入れたときのスタート周波数(周波数プリセット)は、基板上の 13bit の ディップスイッチで設定します。
出力可能周波数は、30kHz ~ 8221kHz です。この周波数内で周波数プリセットした値から上方へ +30kHz までを 60Hz ステップでボリュームによりチューニングします。
なお、オプションの DDS VFO用液晶表示キットを取付けて使用するとロータリーエンコーダによるチューニング方式とすることも出来ます。
オプションの DDS VFO 用液晶表示キット
詳細を見る
ロータリーエンコーダによるチューニングでは 30kHz ~ 8221kHz まで連続して可変できるようになります。
ロータリーエンコーダの可変ステップは、スイッチにより 10Hz / 100Hz / 1kHz に切換えることができます。
(可変ステップ 10Hz 時にロータリーエンコーダを早く回すとスイッチを切換なくても可変ステップが自動的に 10Hz → 100Hz に切換わります)
またオプションの DDS VFO用液晶表示キットを取付けて使用する場合は、表示周波数のオフセットも可能となり、リバースヘテロダイン にも対応します。(リバースヘテロダインとは、出力周波数と液晶の表示周波数との関係が UP/DOWN 逆方向となるモードです)
出力レベルは、500Ω端で約1.1Vpp です。
ダイオード DBM (周波数変換器) を駆動する場合など大振幅の出力が必要な場合は、オプションの DDS VFO 用広帯域アンプ キットを使用すると +13dBm (50Ω端で約 2.8Vpp)まで増幅することができます。
オプションの DDS VFO 用広帯域アンプキット
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RIT 機能は、ボリュームチューニング / ロータリーエンコーダチューニング どちらのモードでも使用可能です。
送信時 Low、受信時オープン(ハイインピーダンス)の信号を入力すれば、RIT ± 1.27kHz (10Hzステップ) の範囲で動作します。
仕様:
出力周波数範囲 | :30kHz ~ 8221 kHz |
周波数プリセット範囲 | :30kHz ~ 8191 kHz を 1kHz 単位で設定 ( DIP SW により 2進数 13bit で設定) |
周波数可変範囲 | :周波数プリセット値 +30Hz ~ 周波数プリセット値 +30.6kHz (ボリュームチューニング時) |
| :30kHz ~ 8221kHz (ロータリーエンコーダチューニング時) |
周波数可変ステップ | :60Hz (ボリュームチューニング時)、10Hz / 100Hz / 1kHz (ロータリーエンコーダチューニング時 (10Hz/100Hzは自動切換機能有り)) |
出力レベル | :1.1Vpp 500Ω終端 (抵抗 R25 によりレベルを下げる方向に調整可能) |
RIT機能 | :±1.27kHz (10Hzステップ) |
表示オフセット機能 | :± 255MHz まで 10Hz 単位で設定 ( DIP SW による 2進数 8bit および ロータリーエンコーダで設定) |
対応ヘテロダインモード | :RF:受信周波数、Lo:VFO周波数、IF:中間周波数 |
| RF - Lo = IF (ロアー ヘテロダイン ) |
| Lo - RF = IF (アッパーヘテロダイン) |
| RF + Lo = IF (リバースヘテロダイン) |
電源電圧・電流 | :5V ± 0.5V 、typ.25mA (ボリュームチューニング時)、typ.28mA (オプションの DDS VFO用液晶表示キット使用時) |
技術解説
本キットは、ANALOG DEVICES 社の DDS IC AD9834 を 16kワードROM 40pin の PIC マイコン PIC16F1939で制御しています。
PIC16F1939
AD9834 は表面実装部品ですが、ハンダづけ済み実装ユニットとしてキットに添付されています。
DDSユニット
AD9834 にはマスタークロック(MCLK)として 30MHz を与えており、出力にはその約 1/4 の 8.221MHz までの周波数が合成可能です。
通常、DDS から取り出せる周波数の上限は、 MCLK の 1/3 ~ 1/4 程度となります。 これ以上の周波数になると DDS 特有のノイズが過大となりスプリアスが増えてしまうからです。
MCLKをもっと高い周波数にすれば、DDS から取り出せる周波数の上限も高くできますが、消費電流もそれに伴って大きくなってしまうため、 本キットでは、MCLKを 30MHz として消費電流を 25mA に抑えています。
AD9834 に内蔵されている周波数レジスタは 28bit なので、1bit当たり 30MHz / 2^28 = 0.111758709Hz 単位での周波数設定が可能です。
例えば、出力周波数を 8MHz にするためには、 周波数レジスタに 8MHz / 0.111758709Hz = 71582788(10進数) = 0x4444444(hex) を設定すれば 8MHz が出力されます。
DDS IC の出力波形
AD9834 #19pin IOUT (30kHz)
上図は 30kHz を出力しているときの AD9834 #19pin IOUT の波形です。
このように MCLK より十分低い周波数を出力するときは、サイン波の出力を得ることが出来ます。
AD9834 #19pin IOUT (8MHz)
上図に 8MHz を出力しているときの AD9834 #19pin IOUT の出力波形を示します。
このように DDS の出力周波数が高くなって MCLK の 1/4 程度までになると DDS 特有の非常に汚い波形が生成されます。
この汚い波形は、この後に接続されているカットオフ 7MHz の LPF を通すことによってノイズが除去され、きれいなサイン波として取り出すことが出来ます。(下図)
Filter output (8MHz Q00 base)
出力コンプライアンス
AD9834 #19pin IOUT の出力は電流出力となっており、出力インピーダンスが高い電流源として動作します。
出力電流の大きさは R25 で設定できますが、AD9834 のスペック(出力コンプライアンス)では IOUT端子に発生する電圧の上限が 0.8V までとなっています。
本キットでは、 R25 が 8.2kΩ のとき、 IOUT端子から出力されるサイン波のピーク (グランド電位から見た波高値) が 0.8V となります。
AD9834 #19pin IOUT (30kHz R25 8.2k)
これ以上、出力電流を増やすと AD9834 の出力コンプライアンスを超えてしまうので R25 は 8.2kΩより大きな値で使用します。(R25を大きくすると出力電流が減り、サイン波の振幅が小さくなる)
ただし、スペックで決められている出力コンプライアンスは、かなり余裕がある値のようで、この値を超えても直ちにNGという訳でもなさそうです。
このあたりのところを実験で確かめてみました。詳細は、
出力コンプライアンスの考察 をご覧ください。
AD9834 #20pin IOUT-B の終端について
AD9834 のデータシートでは #20pin IOUT-B 端子も IOUT端子と同じインピーダンスで終端することが推奨されています(出力のスペクトルに良い結果が出るとされている)。
しかし実際に確認してみたところ IOU-B 端子をゼロ Ω でグランドに接続してもスペクトルに差異が観測されませんでしたので、本キットでは敢えて IOUT-B 端子の終端は省略してゼロ Ω でグランドに接続しています。
下図は、7MHz 出力時の AD9834 #19pin IOUT 端子のスペクトルです。
左が #20pin IOUT-B 端子をゼロ Ω でグランドに接続しているとき、右が 390Ω でグランドに接続しているときのものです。
このように 100MHz までのスペクトルでは IOUT-B 端子の終端有/無の差は観測されませんでした。
AD9834 #19pin 7MHz (#20pin Zero Ω)
AD9834 #19pin 7MHz (#20pin 390 Ω)
広帯域アンプによる増幅
IOUT端子の DAC 出力をカットオフ周波数 7MHz の LPF でノイズを除去し、きれいなサイン波となった信号が、Q00, Q01, Q03 からなる広帯域アンプで振幅が約2倍に増幅されます。
このアンプは、トランジスタのミラー効果の影響を抑え、広帯域の増幅を可能とした回路構成となっています。
広帯域アンプの設計手法は ここをクリック
本キットの信号純度
AD9834 のクロック源には、CTS 社の 30MHz 水晶発振器 636L3C030M00000 を使用しており、きれいな信号純度で発振します。
下図は 7MHz を出力しているときの本キットの出力スペクトルをスパン 50kHz で見たときのものです。(1.1Vpp 500Ω 終端)
スカート部の広がりは無く、きれいな信号純度となっています。
7MHz Output span 50kHz (Q03 emitter)
出力レベルの調整
本キットの出力レベルは R25 で調整可能です。
R25 が 8.2kΩ のとき、本キットの出力は、500Ω の負荷に対して 1.1Vpp で駆動することが出来ます。
R25 を 18kΩ にすると出力レベルは 0.6Vpp、 47kΩ にすると 0.2Vpp となりますので、 ミキサーなどへ入力する場合、最適な入力レベルとなるように調整できます。
下図に本機の出力周波数に対する出力レベルのグラフを示します。
チューニングとオフセット機能について
本キットでは、ボリュームでのチューニング方式を採用し、液晶表示器を必要としません。 周波数の把握は、出力周波数をボリュームのつまみのところに書込んでおけばOKです。
ボリュームでのチューニング方式の場合、可変ステップは、60Hz です。 ボリュームの回転範囲を 510 分割していますのでボリュームの回転範囲いっぱいで 30.6kHz の可変幅となり、周波数プリセット値を起点として上方向に +30.6kHz まで可変できます。
例えば、周波数プリセット値を 7000kHz としておけば、ボリュームにより 7000 ~ 7030.6kHz の周波数可変範囲となります。
60Hz の可変ステップは少し粗いようにも思えますが、SSB であれば何ら問題なく、また CW 運用でも実用上問題なく使用可能です。
オプションの DDS VFO用液晶表示キットを使用し、ロータリーエンコーダによるチューニングモードとすればオフセット機能が有効となります。
オフセット機能は、ロアーヘテロダイン、アッパーヘテロダイン、リバースヘテロダイン、各モードに対応しています。
なお、ロータリーエンコーダを使用した場合の最小可変ステップは 10Hz で、スイッチにより可変ステップを 10Hz/100Hz/1kHz に切換え可能です。
また、可変ステップを 10Hz に設定しているとき、 ロータリーエンコーダを早く回すと 10Hz→100Hz に自動で切替わります。
ロータリーエンコーダをゆっくり回すと再び 100Hz → 10Hz に戻ります。
(ロータリーエンコーダはオプションの DDS VFO用液晶表示キットに附属します)
各ヘテロダインモードの周波数関係は、受信周波数を RF 、DDS の出力周波数を Lo 、無線機の中間周波数を IF とすると
RF - Lo = IF (ロアー ヘテロダイン )
Lo - RF = IF (アッパーヘテロダイン)
RF + Lo = IF (リバースヘテロダイン)
で表わされます。
このとき、DDS の出力周波数 Lo にオフセット値を加減算した値を運用周波数として液晶表示器に表示されます。
オフセット値 Offset は下記の式で現わすことが出来ます。
Offset = RF - Lo
ロアーヘテロダインの場合、オフセット値は プラスの値となり、 「Lo + オフセット値」が表示周波数(運用周波数)です。
アッパーヘテロダインの場合、オフセット値は マイナスの値となり、「Lo - オフセット値」が表示周波数(運用周波数)となります。
リバースヘテロダインの場合は、オフセット値はプラス、マイナスどちらの場合も考えられ 「Lo + オフセット値」または「Lo - オフセット値」が表示周波数(運用周波数)です。
例:
ロアーヘテロダイン :RF=7MHz, Lo=5MHz とした場合、Offset=+2MHz です。
アッパーヘテロダイン:RF=7MHz, Lo=8MHz とした場合、Offset=-1MHz です。また、SSB の場合、LSB が USB に反転されます。
リバースヘテロダイン:RF=7MHz, Lo=8MHz とした場合、Offset=-1MHz です。
リバースヘテロダイン:RF=7MHz, Lo=4MHz とした場合、Offset=+3MHz です。
ロアーヘテロダイン、アッパーヘテロダインは、Lo が上がると表示周波数も上がる、Lo が下がると表示周波数も下がる、お互いに同じ方向の動きとなり簡単ですが、
リバースヘテロダインの場合、Lo が上がると表示周波数が下がる、Lo が下ると表示周波数が上がる、といったお互いに逆の動きとなるため、プログラムはちょっと複雑になります。
本キットでは各ヘテロダインモードに対応できるようにプログラム上で DDS へのデータ設定用と液晶表示器へのデータ設定用の2つの累積加算器を設けており、リバースヘテロダインの場合、DDS
用の累積加算器に加算した値を液晶表示器用の累積加算器からは減算するようにプログラムしています。
また、本キットではボリュームチューニングモード時、ボリュームの位置が丁度 ADC (アナログデジタル変換) の変換ステップの境目で止まったときにパタパタと1ステップの周波数上下が起こることを防ぐため、プログラム上で ADC の値にヒステリシスをかけて細かな ADC 値の変動をキャンセルするようにしています。
液晶表示器との通信
液晶表示器へのデータは、I2Cバスで伝送されますので、接続ケーブルは電源、グランド、クロック、データの4本だけで済みます。
I2C は PIC マイコン内蔵の I2C モジュールは使用せず、ソフトウェアで構成しており、クロックは約 40kHz となっています。
接続ケーブルからはデジタルノイズが発生しますので、出来るだけ最短距離で、また受信部のフロントエンドから離すようにケーブルを引き回します。
AD9834 の不正な周波数出力キャンセルについて
本キットを無線機の VFO として使用する場合、意図しない周波数を出力してオフバンドを引き起こさないよう、回路とソフトウェアで対策しています。
DDS IC AD9834 は、電源を投入した直後、まだマイコンが AD9834 に対してリセットおよび周波数データを設定する前に、まれにゴミ値 (意図しない周波数) を出力することがあります。
対策として、AD9834 のアナログ系の電源 AVdd を デジタル系の電源 DVdd より少し遅れて立ち上げることによりこの現象を回避しています。
マイコン PIC16F1939 の RA5pin がそれで、電源を立ち上げて DVdd が印可されてから約2秒後に RA5pin が High となって AD9834 の AVdd に電源が供給され、 DAC が動作してサイン波が出力できるようになります。
ゴミ値が出力されるのは電源投入直後なので、その時点ではまだ AVdd が供給されておらず、DAC が動作しないのでゴミ値の出力はキャンセルされます。
また、オフセット値を不正な値に設定したとき(液晶に表示される周波数がマイナスになってしまうような場合)、意図しない周波数が出力されてしまってオフバンドなどを起こさないよう、安全のために RA5pin を使って AD9834 の出力を止める動作も行っています。
周波数プリセットやオフセット値など、設定方法の詳細は、初期マニュアルをお読み下さい。