広帯域アンプの設計手法
ここで紹介する広帯域アンプ (電圧増幅回路) は、下図のようにトランジスタ Q1 と Q2 から構成された負帰還型のアンプです。
通常、エミッタ接地増幅回路は、ミラー効果のためにあまり周波数特性は良くありませんが、この広帯域アンプは Q1 のコレクタが Q2 のベースに接続されているため、Q2 のベース・エミッタ間電圧Vbe ( 0.6V) で Q1 のコレクタ電圧がクランプされミラー効果の影響が出ないので広帯域の特性が得られます。
各電流の関係は、
I1 = I2 + I3 ------- 式(1)
となります。
また、電圧ゲイン Avは、次式のように R1 と R2 の抵抗比で決定されます。
Av = 1 + R2 / R1 [倍] ------ 式(2)
回路図の V1 は Q1 の動作点(無出力時の Q1 のエミッタ電位)、V2 は Q2 の動作点(無出力時の Q2 のコレクタ電位)です。
設計にあたり、先ず必要な電圧ゲイン Av [倍]、出力の最大振幅および Q2 の動作点 V2 を決めておきます。
なお、振幅の下限をあまり低く設定すると振幅の下限時に Q1 のエミッタ電流が小さくなり hfe が低下して歪が発生するので、振幅下限時でも Q1 のエミッタに 1mA 程度は 流れるように設計しておきます。
必要な電圧ゲインを得るための抵抗 R1 と R2 の組み合わせは無数に考えられますが、設定により動作点が大きく変わってきますので適正な値となるよう以下の手法で各諸元を決定します。
1.R3 を決定する。
通常は、I3 が 2mA ~ 10mA 程度になるようにします。
I3 が大きいほうが Q1 の ft (トランジション周波数) が高くなり周波数特性には有利になりますので、消費電流と Q1 のコレクタ損失とのトレードオフで決定します。
R3 の両端が Q2 のベース・エミッタ間電圧 (Vbe) 0.6V でクランプされているので、
R3 = 0.6 / I3
2.最大振幅と動作点 V2 から振幅の下限電圧 Vmin を求め、 R1 を決定する。
Vmin = V2 - 最大振幅 / 2
振幅の下限では Q2 のコレクタ電位と Q1 のエミッタ電位 が等しくなるので
I2 = 0
従って式(1)より振幅の下限 Vmin では
I1 = I3
振幅の下限 Vmin でも hfe 低下による歪が発生しないよう Q1 のエミッタに 1mA 流す必要があるので
R1 = Vmin / 1mA
3.電圧増幅度 Av より R2 を決定する。
式(2)より
R2 = R1 * (Av - 1)
4.無信号時の動作点 V2 より I1 を求める。
I1 は下記の式で求まります。
I1 = (V2 + I3 * R2) / (R1 + R2)
【参考: I1 の式の導出】
I1 = V1 / R1 → V1 = I1 * R1
I1 = I2 + I3 → I2 = I1 - I3
V2 = V1 + I2 * R2
= I1 * R1 + I2 * R2
= I1 * R1 + (I1 - I3) * R2
= I1 * (R1 + R2) - I3 * R2
∴ I1 = (V2 + I3 * R2) / (R1 + R2)
5.無信号時の動作点 V1を求めて Q1 のベースバイアス電圧 Vb を決定する。
ベースバイアス電圧 Vb は、V1 に Q1 のベース・エミッタ電圧 Vbe (0.6V) を加算した値になります。
V1 = I1 * R1
Vb = V1 + 0.6
6.Q1 のベースにベースバイアス電圧 Vb が印可されるようにバイアス抵抗 Rbias1, Rbias2 を決定して終了です。
Vb = Rbias2 / (Rbias1 + Rbias2) * Vcc
この回路の入力インピーダンス Rin は Rbias1 と Rbias2 の並列合成抵抗値と等しくなります。
Rin = Rbias1 // Rbias2
入力インピーダンスを高くするために Rbias1 と Rbias2 をあまり高抵抗にしすぎると Q1 のベース電流を流せなくなります。
目安としては Rbias2 に流れる電流が I3 の 1/10 以上となるようにします。
なお、この回路から出力を取出す場合、インピーダンスの低い回路を Q2 のコレクタに接続すると上記で計算した電流関係が崩れてしまうので、エミッタフォロアーなどの高インピーダンスのバッファ回路を経由して出力を取出すようにします。
この広帯域電圧増幅回路は電卓だけで比較的簡単に設計でき、再現性も良いのでカット&トライの必要が無く、数倍程度のゲインが必要な場合にはお勧めの回路です。