出力コンプライアンスの考察

AD9834 の 19pin IOUT 端子は、DAC の出力端子ですが電流出力となっており、内部的にはハイインピーダンスの定電流源として動作します。
内部の等価回路は明らかにされていませんが、同じシリーズの AD9850 や AD9851 などのデータシートでは下図のような等価回路が示されており、AD9834 も同じような回路構成になっているものと推定されます。
current_output
AD9834 のデータシートでは、この IOUT 端子と IOUT-B 端子それぞれにグランド間に 200Ω の抵抗を接続し、電流出力を電圧出力に変換して取り出す場合のスペックが記載されています。

また、DAC のフルスケールの電流値IOUTfullscale(サイン波のピーク時の電流)は、Rset(本キットの R25 に相当)により次式で決められます。

          IOUTfullscale = 18 * 1.2 / Rset

Rset=6.8kΩ の場合、

          IOUTfullscale = 3.2 [mA]

となり、IOUT端子に接続された 200Ω の抵抗には

          3.2 [mA] * 200 [Ω」 = 0.64 [Vpp]

のサイン波が得られる計算となります。
iout_output


実験で確かめてみます。
下図は、IOUT端子に Rload 200Ω を接続した場合に 30kHz を出力したときの波形です。
確かに計算どおり、0.64Vpp のサイン波が得られています。
また、サイン波の下限は、ほぼグランドレベルとなっています。

output_compliance_without_c


次に IOUT端子のサイン波を次段のフィルタやアンプなどに接続するときに DC カットのカップリングコンデンサを通して接続する場合を考えます。
下図は、IOUT端子に Rload 400Ω、次いでカップリングコンデンサ Cc 1uF、そしてフィルタやアンプなどの入力インピーダンスとして同じくRin 400Ω が接続された場合です。
iout_output_through_c

AD9834 の IOUT端子から Rload の方を見たインピーダンスは、Rload // Rin なので 200Ω に見えます。
従って、IOUT端子に発生するサイン波のピークは、先の例と同じく 3.2 [mA] * 200 [Ω」 = 0.64 [Vpp] になるはずです。

実験で確認してみた波形を 下図 に示します。

output_compliance_with_c

確かにサイン波のピークツーピークは 0.64[Vpp] ですが、サイン波の下限がグランドレベルから浮き上がっており、グランドレベルから見たサイン波のピークは 0.96V になっています。

この現象は、DAC の電流出力回路が最初に示した等価回路のようにモノポーラタイプなので電流吐出し(ソース)側にしか動作せず、電流を吸い込む(シンク)側には動作しないため、 Cc に溜まった電荷は Rload だけで消費されて Cc がチャージされた状態となり、グランドレベルから浮き上がってしまうのが原因です。

AD9834 のデータシートには IOUT 端子の出力コンプライアンスの項目があり、max 0.8V と記載されています。
出力コンプライアンスとは、IOUT 端子が動作することのできる DC 電位のことを指しており、サイン波のピークでもこの電圧を超えないようにする必要があります。

従って上図のようにサイン波のピークが 0.96V となってしまうのは、スペックを超えた値なのでNGのはずですが、波形的には特に問題なさそうに見えます。
IOUTfullscale 値をさらに大きくして波形の振幅を大きくしても波形に歪などは発生しません。
出力コンプライアンスで定められたスペック値はかなり余裕のある値のようです。

そこで、IOUT端子の電流出力回路の特性を測ってみました。

graph

図は IOUT端子に 30kHz を出力して Rload を可変しながら (Rload を少しづつ大きくしていく)サイン波のピーク値を測定し、

          電流 = サイン波のピーク値 / Rload

をプロットしていったものです。

IOUT端子の電圧が 0.2V ~ 1.9V くらいの範囲で定電流特性を示していますが、波形的には 1.8V を超えたあたりからサイン波のピークに歪が発生し始めます。

waveform









 サイン波のピークで歪が発生する
この実験結果から AD9834 の出力コンプライアンスの実力値は、max 1.8V 程度はあることが判りました。

IOUT端子から波形を取出す場合、通常は DC カットのコンデンサを接続することが多いと思いますが、スペックで定められた出力コンプライアンスを遵守しようとすると波形の振幅を小さくする必要があります。
しかしながら実験結果から、大きな振幅を取出したい場合、メーカーの動作保証外とはなりますが、多少のスペックオーバーは許容できるように思われます。