相互変調歪について
相互変調歪 IMD (Inter Modulation Distortion) とは、増幅器に2信号を加えた場合に発生する歪のことです。
理想的な増幅器は、入力レベルに対して出力レベルがきれいに比例し、入出力の関係をグラフに書くと直線 (線形) になります。
直線的に増幅するのでリニアアンプなどと呼ぶ訳です。
しかしこれは理想的な場合であって、実際の増幅器においては厳密にはリニアに増幅しません。グラフに描くと直線ではなく、非線形なグラフになります。
このような状態は、入力に対して出力が同じ相似形ではなくなることを意味し、このような増幅器に信号を入力すると「歪」が 発生することになります。
増幅器に歪が無く、線形に増幅する場合、入出力の関係は単純な1次式で現されます。
y(t) = ax(t)
この場合、a はこの増幅器の増幅度ということになります。
次に増幅器に非線形性がある場合、入出力の関係は多項次の式で現すことができます。ここでは3次の項までで近似した場合を考えます。
y(t) = ax(t) + bx^2(t) + cx^3(t) ------- (1)
この非線形性がある増幅器に2つの信号 x1(t) = Acosω1t, x2(t) = Bcosω2t を入力した場合、(1)に代入して展開すると
*各係数は複雑になるので D ~ R で表わしています
いろいろな成分が発生しますが、この内、式(3) は 式(1)の2次の項で発生するもので、2*ω つまり2倍の周波数が発生しているので2逓倍回路が必要な場合は、2次の項が大きくなるように増幅器をわざと歪ませれば良いわけです。
式(4) は式(1)の3次の項で発生するもので、3*ω つまり3倍の周波数が発生しているので3逓倍回路が必要な場合は、3次の項が大きくなるように増幅器を歪ませます。
式(5) は式(1)の2次の項で発生するもので、ω1 + ω2 と ω1 - ω2 、つまり2周波の和と差、ヘテロダイン成分が発生するので周波数変換回路では
2次の項が大きくなるように増幅器を歪ませます。
さて本題の相互変調歪 IMD を示すのが 式(6)と式(7)です。
式(6)と式(7)は、式(1)の3次の項で発生するので3次の相互変調歪と呼ばれます。
N, P, Q, R の中身を示すと
N = 3/2 * (c * A^2 * B)
P = 3/2 * (c * A^2 * B)
Q = 3/2 * (c * B^2 * A)
R = 3/2 * (c * B^2 * A)
このように式(6)と式(7)は入力した2信号のどちらかがゼロなら発生しない項なので「相互」変調歪と言います。
つまり、一方の信号の振幅が他方の信号の振幅によって影響を受けるということを表しています。
3次の相互変調歪は式(6)と式(7)の周波数成分である次の4つを指します。
2*ω1 - ω2 ---------- (8)
2*ω2 - ω1 ---------- (9)
2*ω1 + ω2
2*ω2 + ω1
特に式(8)と式(9)は元の信号ω1やω2の近傍に発生するため、フィルターなどで取り切れない場合が多く、IMD3 と呼ばれ特に重要なファクターとなります。
なお、式(1)は3次の項までで近似しましたが、更に高次の項まで加えて IMD3, IMD5, IMD7, IMD9 を計算すると
IMD3 = 2*ω1 - ω2
IMD3 = 2*ω2 - ω1
IMD5 = 3*ω1 - 2ω2
IMD5 = 3*ω2 - 2ω1
IMD7 = 4*ω1 - 3ω2
IMD7 = 4*ω2 - 3ω1
IMD9 = 5*ω1 - 4ω2
IMD9 = 5*ω2 - 4ω1
次数が上がると各係数が小さくなりますので、通常 IMD は高次になるほど減少します。
例えば、ツートーンジェネレータの2周波 ω1, ω2 をそれぞれ 1000Hz と 1600Hz とすると各 IMD は
IMD3 = 400, 2200 [Hz]
IMD5 = -200, 2800 [Hz]
IMD7 = -800, 3400 [Hz]
IMD9 = -1400, 4000 [Hz]
プラスの周波数は、送信機に入力した場合、キャリアの周波数を基準にしてプラスの周波数として出力されます。
マイナスの周波数は、送信機に入力した場合、キャリアの周波数を基準にしてマイナスの周波数として出力されます。
相互変調妨害と混変調妨害について
受信機において、目的信号以外の信号の影響を受けて目的信号の受信に障害をもたらす現象に相互変調妨害と混変調妨害があります。
相互変調妨害は、目的信号以外の2周波が互いに影響しあって IMD が発生し、その IMD によって目的信号が妨害されるものです。
従って、IMD の計算式で計算される周波数関係が成り立つときに発生する妨害です。
一方、混変調妨害とは、目的信号以外にもう1つの別の信号があるだけで発生する妨害で、互いの周波数関係には依存せずに発生します。
先の式(2) が混変調妨害を表しています。
式(2) の E と F の中身は、
E = aA + 3/4 * cA^3 + 2/3 * cA*B^2
F = aB + 3/4 * cB^3 + 2/3 * cA^2*B
式(2) は、目的信号がもう1つの別の信号の影響を受けて振幅変調されることを意味します。
また、その妨害の程度は、妨害を与えている方の信号強度の二乗に比例します。
以上のように受信機のフロントエンドに式(1)の c の項、つまり3次の歪があると相互変調特性、混変調特性ともに悪化します。